• 文字サイズ
    を変更する

迷子椎(まいごじい)【東京都・三宅島】

2023.11.28

 「迷子椎」を語らずして、三宅島の巨木は語れない…という程、島の人々にとって愛着のあるスダジイの巨木。
 その名の由来は遠い昔、奥深い照葉樹の森で当時からひときわ大きかった迷子椎を目印にして迷わず無事に帰って来られるようにと名づけられた。有史以来15回の火山活動が起きている島ですが、少なくとも13回の噴火に耐え忍んで生き抜いてきた選ばれし個体といっても過言ではないのです。たった1つの椎の実からここまで成長するまで…島の人々の様々な暮らしを見守って来てくれた事でしょう。

島のスダジイはどの個体も個性的だが、迷子椎のフォルムはとても美しい

島のスダジイはどの個体も個性的だが、迷子椎のフォルムはとても美しい



 実りの秋にはたくさんの実を落とし、人々がそれを拾って食料として持ち帰る。また、日本でも有数のバードアイランドで知られている三宅島ですが、老木となった今でも迷子椎の洞を利用して野鳥たちが繁殖をしたり…。古くから色んな形で恩恵を与えてきてくれました。
 伊豆諸島最多の火山活動が起きている三宅島で3000本以上の巨木が残っている事。これはとても興味深い事です。どうして巨木が島に多く残っているのか? 三宅島で生きてこられた先人が「巨木には神様が宿る」と信じてこられ、人間の都合で切ってしまった日には災いが起きるのではないかと恐れられて来た事も現在でも巨木が多く残る理由の一つではないかと教わってきました。

2000年の大噴火では4年半全島避難となったが、2700年ぶりに雄山山頂には陥没カルデラが形成された。山頂山腹の森は消失したが、緑が蘇ってきた(2023年5月撮影)

2000年の大噴火では4年半全島避難となったが、2700年ぶりに雄山山頂には陥没カルデラが形成された。山頂山腹の森は消失したが、緑が蘇ってきた(2023年5月撮影)



 山の恵みも海の恵みも必要な分だけ頂いてきた島の暮らしは持続可能でとてもシンプル。先人が大切に残して下さった迷子椎を今度は私たちが次世代の子供たちへと繋いで残していく事が恩返しだと思っています。
 生命力溢れる火山島三宅島の巨樹たちにぜひ逢いに来て下さいね。お待ちしております!

迷子椎(まいごじい)

幹周り 789㎝
樹高 15m
樹齢 500~600年
保護指定 東京都指定天然記念物(令和5年)・三宅村指定天然記念物(昭和47年)
所在地 東京都三宅島三宅村坪田(大路池周辺)
交通 東京港竹芝桟橋から定期船「橘丸」で6時間半、三宅村営バスのバス停「大路池」から大路池方面へ車道を歩いて10分ほど
著者 菊地ひとみ(東京都自然ガイド、ネイチャーガイド(earth wind & 代表))