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屋久島「麦生(むぎお)集落のスダジイ」

2018.4.1

屋久島「麦生(むぎお)集落のスダジイ」の写真

 真っ暗に茂る森に一礼し、塩を携えて入る。道はないが歩きやすい。進むと森の奥から水音が響く。大きな川が近いのだ。小尾根沿いに下ると、巨木が大きく枝を広げ、森の中に単木で陣取っている。巨大な椎の木、スダジイの巨木だ。相変わらず、大きい。こういうのに対峙すると、自分が取り組み、そして進んでいる道は本当に確かか?などと鏡の如く向き合ってしまう。  

 このスダジイには、傷のごとく見える部分もあるが、屋久島は台風が最大の勢力になって通過する場所。夜は隣の種ヶ島と全く違い、奥山から冷気流が降りてくる。苛酷な環境下で厳しい自然の剪定を受けつつ生き延びた姿がそこにある。老いをみせつつも勢いある太い枝が、生き生きと空まで堂々と伸びている。その先にオオタニワタリなどのシダ植物が着生し、緑あざやかなワンポイントアクセントになっている。つる性の植物が這い上がり、着生植物が空気中に栄養根を伸ばし降ろし、ひもがあちこちに垂れ下がったような姿には、迫力も感じる。

川横に広がる巨樹の森の写真

 ある日、島の幼稚園の園長先生から「園児に、森が育つ過程を体験させたい。」と相談があった。「子どもの心に、森の種をまく!」「おもちゃ売り場があるデパートより、森に行きたい、と言う子どもを育てたい」と。その気持ちに応え、園児たちを森に連れて行き、目の前で立木の伐倒から玉切りまで一気に見せたら、なんか拍手までもらった。椎茸の菌コマ打ち体験の、ほだ木づくりのためとはいえ、木を切るショッキングな瞬間だったはずなのだが。幼稚園で見てきた森の変化を学ぶ紙芝居が理解の助けとなったようで、光の変化と実生の関係、萌芽再生の姿も実際に見て納得してくれた。園児の知性の鋭さと熱心さに驚いた。  

 屋久島の里山の森では尾根沿いにスダジイの巨木が等間隔で並んでいたりするが、実は祖先が子孫を想い、森の再生を見込んで母樹として切り残したものだ。また河畔林は水源維持のため切らずにおいておくので、川横に巨樹の森があったりする。先代よりずっと前から引き継がれてきた子孫への想いの形が、里山の森なのだ。屋久島では、そのような日本古来の思想が森の中に息づいている。

麦生集落のスダジイの地図

幹周り600cm以上
樹高25m以上
樹齢400年以上(推定)
所在地鹿児島県熊毛郡屋久島町麦生集落の隣接林
交通島の南南東にある麦生集落から尾根谷を越えて徒歩20分くらい。距離は短いが道がないため、山に馴れていない方はガイドに同行してもらったほうが無難。
著者島津 康一郎(ガイド 屋久島在住)