葛飾神社のクロマツ
2017.12
東京湾に沿った市川から船橋、幕張、千葉にかけては、かつて松林が続いていました。今、その風景は大きく変わってしまいましたが、僅かながら残るものもあります。JR西船橋駅から国道14号線を市川方面に行くと、右手に勝間田公園が、その先に葛飾神社があり、石段の下から、お堂を覆いつくすような松が見えてきます。それが、今も残る「葛飾神社のクロマツ」です。「葛飾神社のクロマツ」は、1836(天保7)年に刊行された『江戸名所図会』の挿絵『勝間田池』にも、その姿が描かれています。『勝間田池』は本郷にあった溜池でしたが、和歌の名所であった奈良の勝間田池になぞらえて、そのように呼ばれていました。池の左手にある小山の上には、松で囲まれた熊野宮が描かれています。
熊野宮は、後に葛飾神社と合祀されましたが、この熊野宮を取り囲む松の一樹が、「葛飾神社のクロマツ」ではないかと推測されています。現在では、勝間田池も埋め立てられ公園になってしまいましたが、かつての情景を想い描くことができるのもこのクロマツが現存していればこそ。拝殿の屋根の上に広がる枝ぶりは絵になりますし、木肌の亀甲模様も極めて美しいものです。このクロマツは、平成24(2012)年3月に二宮神社のイチョウとともに船橋市の天然記念物に指定されました。天然記念物であった妙見神社のクロマツが虫害で枯死し、指定解除されてから35年後のことです。船橋市内に天然記念物を、と願う市民の声が届いたようです。帰路はJR西船橋駅方向に戻り、駅入口の交差点の先を左手に入ると春日神社が、その脇には西船4丁目緑地があり、そこにも東京湾から続く松林の一部が残っています。葛飾神社と西船4丁目緑地に設置された案内板には、解説とともに『江戸名所図会』の挿画が添えられており、かつての情景に想いを馳せることができます。
幹周り | 342cm |
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樹高 | 13.0m |
樹齢 | 約400年(推定) |
保護指定 | 船橋市天然記念物 |
所在地 | 船橋市西船5-3葛飾神社 |
交通 | JR西船橋駅又は京成本線京成西船駅から徒歩5分 |
著者 | 三沢博志(千葉県在住 北総の森・巨樹古木研究会代表、全国巨樹・巨木林の会会員) |