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名護のひんぷんガジュマル【沖縄県】

2021.7.30

 沖縄県名護市には美しい辺野古の海を保護する活動でたびたび訪れています。このまちの入り口にガジュマルの巨木があるのを知ったのは、沖縄が本土に復帰したのを記念して開かれた国際海洋博覧会の会場予定地の植生調査をするために訪れた今から50年ほど前のことです。名護のまちの入り口の当時の国道の真ん中に立っているガジュマルの巨木は、「ひんぷんガジュマル」と呼ばれていました。ヒンプンとは沖縄地方の家で、屋敷の正門と母屋の間に屏風状の塀を設けて、外からの目隠しや悪霊の侵入を防ぐためのものです。

名護大通りに立つ「ひんぷんガジュマル」

名護大通りに立つ「ひんぷんガジュマル」 2017年7月21日撮影



 名護市のこの木が「ひんぷんガジュマル」と呼ばれるのは、乾隆15(1750)年に琉球王国の三司官(宰相)であった蔡温(さいおん)が国内の争いを鎮めるために、この場所に三府龍脈碑(さんぷりゅうみゃくひ)を建てたことに由来するものです。その碑がヒンプンのように見えたことから屏風石(ヒンプンシー)と呼ばれるようになり、その後、碑の隣に生育していたガジュマルもひんぷんガジュマルと呼ばれるようになったと言われています。中国の福州で風水を学んだ風水思想家として知られる蔡温が選んだ場所です。

名護の「ひんぷんガジュマル」の太い幹と枝から下りた気根

名護の「ひんぷんガジュマル」の太い幹と枝から下りた気根
樹下の碑は復元された三府龍脈碑 2017年7月21日撮影



 ガジュマルはクワ科イチジク属の常緑高木で、沖縄では妖精(キジムナー)が棲む木とされ、聖域や拝所に多く植えられています。「ひんぷんガジュマル」は名護大通りに挟まれて立っており、樹高17m、胸高の周囲11mの見事な巨木で、樹齢は推定320年とされ、平成9年には国の天然記念物に指定されています。
 名護のまちに災難が入り込まないように祈る地元住民の信仰の木であり、まちのヒンプンとして市のシンボルとなった市民の木です。

名護のひんぷんガジュマル

幹周り 1,180cm(2020年12月 名護市教育委員会文化課実測)
樹高 17m(2020年12月 名護市教育委員会文化課実測)
樹齢 320年(推定)
保護指定 国指定天然記念物
所在地 沖縄県名護市大東1丁目1
交通 沖縄自動車道利用で那覇空港から約85分(那覇I.C~許田I.C経由)
著者 亀山 章(公益財団法人日本自然保護協会 理事長)