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  • 日本でいちばん古い植物園でのんびり都心の巨樹巡り

    東京都

    1時間程度

     小石川植物園は、日本で最初にできた植物園であり、平成24(2012)年には歴史的価値が認められ国指定の名勝及び史跡となりました。正式名称は「東京大学大学院理学系研究科附属植物園」といい、本来は東京大学の研究・教育施設ですが、庭園等の施設を一般にも公開しています。

     その前身は江戸幕府によって設置された小石川御薬園で、享保7(1723)年に設けられた施薬院(小石川養生所)は、山本周五郎氏の連作短編小説『赤ひげ診療譚』や、その小説を映画化した黒澤明監督作品の『赤ひげ』で有名です。明治10(1877)年、東京大学が設立された直後に附属植物園となり、以降、一般にも公開されてきました。

     東京ドーム約3.5個分の園内には、約4,000種の植物が栽培されており、見応えのある巨樹や植物園ならではの学問的な由緒のある植物が点在しています。植物や庭園に関心のある方に人気のスポットで、緑に潤う静かなたたずまいの中で、巨樹や季節毎に咲く花たちを眺めてのんびりしたい方にお勧めです。

    【アクセス】
    ・電車:都営地下鉄三田線「白山駅」より徒歩約10分/東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷駅」より徒歩約15分
    ・バス:都営バス(上60)大塚駅~上野公園線「白山2丁目」より徒歩約3分
    【入園料】一般(高校生以上)400円/小・中学生130円/小学生未満無料

  • ヒマラヤスギ

    ・幹周り388cm
    ・樹 高22m
    ・樹 齢95年と110年
    ・所在地本館北側
    ※いちばん太い木の幹周りと樹高を表記。
    樹齢はどの木かは不明。

    スポット1

    ヒマラヤスギ(4本)

    小石川植物園

    焼夷弾にあたっても生き残った生命力

     正門前の坂を登りきったモダンな植物園本館の前に、その大きな姿は現れます。職員のかたによると、「ヒマラヤスギという名前なので、これは杉ですか?」と聞かれことがあるそうですが、実はマツの仲間で大きな松ぼっくりもたくさんつけるとのこと。幹のかなり下の部分から枝が分かれているのは、第2次世界大戦中に焼夷弾が命中して幹の上のほうが燃え、そこからまた生育した経緯があるからだそうです。
     小石川植物園の樹木は、明治維新の際にそのほとんどが伐られ、残った樹木も関東大震災で多くの枝が薪として利用されました。けれども、そのような過酷な環境を生き残った巨樹が今こうして元気に育っているのを目の当たりにすると、植物の生命力の強さにあらためて驚かされます。

  • クスノキ

    ・幹周り592cm
    ・樹 高21m
    ・樹 齢300年以上(推定)
    ・所在地ツバキ園の中

    スポット2

    クスノキ

    小石川植物園

    樹齢300年のパワースポット

     イロハモミジの並木を通り抜けたところにある立派なクスノキ。ツバキ園に植えられた何十種ものツバキたちの真ん中にどっしりとかまえています。樹齢は300年以上ともいわれ、園のなかでも古い木と推測されています。
     風格のある姿もさることながら、パワースポットとしても人気があるようで、お客さんのなかには、「このクスから元気をもらいに来ているんです」という方もいらっしゃるとか。園のなかの樹木は基本的に剪定などの手を入れず、生長するにまかせているということなので、このクスノキものびのびとした力強さが感じられます。

  • イチョウ

    ・幹周り490cm
    ・樹 高22m
    ・樹 齢300年(推定)
    ・所在地公開温室西側のトレイの近く

    スポット3

    イチョウ

    小石川植物園

    精子発見のイチョウ

     植物園のほぼ中央に生育している、世界的に有名なイチョウです。明治29(1896)年に帝国大学理科大学(現在の東京大学理学部)植物学教室の助手であった平瀬作五郎氏が、このイチョウを研究材料として種子植物にも精子が存在することを発見しました。これは日本の生物学者による世界的な発見の一つで、生物学史上の偉業とされています。
     園内のほとんどの植物は、明治時代になってから植えられたものであり、樹齢130年〜140年程度のものが多いのですが、このイチョウは年輪の調査を行ったところ、樹齢300年以上と推定されました。明治維新の際に伐ろうとしたところ、このイチョウが太すぎたため鋸(のこぎり)の歯が入らず、難を逃れたといわれています。昭和初期までは、このときの鋸の傷跡が残っており「鋸歯(のこぎりば)のイチョウ」とよばれていました。

  • 千手楢

    ・幹周り491cm
    ・樹 高29m
    ・樹 齢不明
    ・所在地巨木並木の西側

    スポット4

    ユリノキ

    小石川植物園

    大正天皇が命名したといわれる「ユリノキ」

     園内中央奥のボダイジュ並木を抜けたあたりに、ひときわ大きいユリノキがそびえ立っています。傍らの看板には「明治初年、伊藤圭介によって日本で最初に導入された」とあります。東京大学理学部植物学教室の員外教授だった伊藤圭介氏は、新政府の招きで来日中のアメリカのモレー博士からユリノキの種子を貰い受け、東京の自宅で播種・育成したといわれています。モレー博士が来日したのは明治6(1873)年であることから、小石川植物園にユリノキが植えられたのはおそらくこの年であると推定されています。
     また、明治23(1890)年、大正天皇が皇太子の頃にご来園された際に、この木を見てユリノキと命名されたとするエピソードがあります。それまでは、図書や標本にはハンテン ボクやチューリップノキなどが使われていましたが、明治28(1895)年以降、ユリノキの名前が一般的に使用されるようになりました。

  • トキワマンサク

    ・幹周り303cm
    ・樹 高13m
    ・樹 齢93年
    ・所在地ユリノキの前の道を奥に進む

    スポット5

    トキワマンサク

    小石川植物園

    こんなに大きなものは珍しい

     トキワマンサクは、国内では限られた場所にのみ自生する希少な樹木です。三重県伊勢市の伊勢神宮宮域林のほか、熊本県荒尾市の小岱山、静岡県湖西市神座の3カ所の生育地が確認されているのみで、近い将来において野生での絶滅の危険性が高いとされる絶滅危惧ⅠB 類(環境省レッドリスト)に指定されています。
     本来は背が高くなる樹種なのですが、園芸種として垣根として使われるため剪定される場合が多く、大きく育つ個体が少ないことから、これほど大きく育ったものは珍しいでしょう。小石川植物園では、4月半ばからゴールデンウイークあたりまで、小さく真っ白な花が枝垂れ桜のように咲き誇り、壮麗な姿を見せてくれます。




  • ニュートンのリンゴとメンデルのブドウ

    ニュートンのリンゴ

    そのほかの見どころ

    ニュートンのリンゴとメンデルのブドウ

    小石川植物園では、かの有名な「ニュートンのリンゴ」と「メンデルのブドウ」が見られます。物理学者ニュートンの生家にあった、「万有引力の法則」を発見したというリンゴの木は、接ぎ木によって各国の科学に関係ある施設で育てられており、昭和39(1964)年に日本学士院にも贈られましたが、接ぎ穂がウイルスに侵されていたため小石川植物園に隔離保存されました。その後ウイルスが無毒化されたことにより、昭和56(1981)年1月に一般公開されました。
     また、遺伝学の基礎を築いたメンデルが地元農家のワインの材料に使うブドウの品種改良の実験に用いた由緒あるブドウの分株も、同じように世界中に植えられており、小石川植物園には1914(大正3)年に贈られました。
     リンゴもブドウもちゃんと実るそうですが、お味のほうはどうでしょうか。