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  • イルカさん(シンガーソングライター)

    「宇宙のかけら」と生きものたち

    イルカさん(シンガーソングライター)
    2019.7.25

2004年夏、IUCN初の親善大使に
2004年夏、IUCN初の親善大使に

「歌う親善大使」

 昨日、三重県伊勢市にある「伊勢神宮」に行ってまいりました。自然のままの森のなかに素晴らしい御社があり、巨樹もたくさんあって感動しました。午前中から森のなかを歩かせていただいたのですが、ちょっと雨が降ったものですから、森のなかは木々の甘い香りが立ち込めエネルギーに満ちていました。

 私、子どものころはジャングルに入って野生動物を助ける仕事をする、と決めていたのです。そのためには獣医さんの免許をとろうと思っていたのですが、中学生のときにビートルズとの出会いがあって音楽の道へ。歌手になってからも生きものを想って曲をつくってきました。当時、レコード会社の大人たちには、そういった曲は地味なのでヒットにはつながらないと言われましたが、中・高校生の男の子や女の子に共鳴してくれる子が多かった。それで勇気をもって歌ってこられたのです。そして、その子たちはもう還暦を迎える年頃になっているわけで(笑)。その方たちから、当時「いつか冷たい雨が」を聴いたとき、はじめてわかってくれる大人に出会えたと思った、と言われることもあります。自分の生きものへの愛や懺悔という気持ちを歌ってきてよかったなと思っています。

 そして気づいたら2004年にIUCNの初代親善大使に任命され、学者さんたちやNGOの皆さん、行政の方たちと勉強させていただく場をいただいて、大使として生きものや地球環境のことを皆さんにお伝えできることになりました。

 最初、親善大使に任命されたときには、IUCNは国際的な組織なので、大きなオフィスがあって、どんどん活動を進めているイメージだったのですが、スタッフもいなければ電話もない、そのうえ資金がゼロということだったので(笑)。まずはみなさんにIUCNを知ってもらうためにはコンサートをやるのが一番ですかね、ということで始まったのが山梨県の河口湖ステラシアターでの「イルカ with Friends」。このコンサートの開催は今年で15回目を迎え、IUCNを広く知って頂き寄付活動のひとつにもなっています。また、依頼を受けてIUCNの歌「We Love You Planet!~ひびけ!惑星に。」を作り、世界自然保護会議のときには、みなさんと一緒に歌わせていただいています。
http://www.iucn.jp/home-1/2010-09-29-13-03-44/topics/weloveyouplanet

「宇宙のかけら」

樹の輪切りに描いた絵を胸に
樹の輪切りに描いた絵を胸に

 私は絵を描くのが好きで、絵本を描いたり、着物の絵柄をデザインしたりもしています。今、着物に描いているのはバオバブです。アフリカのバオバブがどんどん倒れているということを聞いて、これはたいへんなことが起きているぞというメッセージを送りたいと考えています。

 木の板に絵を描くのも好きで、そのきっかけになったのが阪神淡路大震災です。焼けてしまったお寺の柱を輪切りにして、そこに絵やメッセージを書いて、子どもたちにピアノを送るというボランティア活動に参加させていただいた。そのときの400~500年の樹齢があろうかという輪切りの切り口があまりにも美しくて。それから木に魅入られて、あちこちで貰っては持ち帰り、家中が乾かしている板だらけになるほど(笑)。

 夫の療養のために北海道の旭川に部屋を借りていた時期もあるのですが、病院から帰ってくる道すがら、松ぼっくりとかドングリとか、いろんなものが落ちているのです。いつも部屋に持って帰って、シューズボックスの棚の上にドングリなんかを置いていたら、そこがいつの間にか拾ってきたたくさんのもので森みたいになっちゃって、帰ってくるたびにホッとするのです。ただいまーと自然に声がでる。それがすごくうれしくて。いってみれば夫がリハビリをしていて、そのために私も移り住んで、とけっして幸せな光景ではないのですが、その玄関にできた森の世界に救われました。

 旭川にはシラカバもたくさんあって、「いいなー、あんな枝があったらなー」と思っていたら、雪が降っている帰り道、その枝がぼきっと折れて落ちていたのです。いただいてきて部屋に枝を飾ったらすごくきれいでしてね。それが「宇宙のかけら」という歌になりました。そう思うと、宇宙のかけらって足元にたくさん落ちているのです。

小石川植物園(東京都文京区)にて
小石川植物園(東京都文京区)にて

「身近な木は守ってくれる」

 遺跡を見るのも好きでカンボジアによく行くのですが、熱帯なので樹の育つスピードが速いのでしょうね。寺院の建物と一体化しているような巨樹もあります。石を持ち上げて育ち、切られても、そこからまた伸びている。東日本大震災の後にこの光景を見たときは、決して負けずに命をつなげようとしていると思うと胸があつくなってしまって。カンボジアには、こういう大きな木がたくさんあって観光の目玉になっています。

 現地の友だちは、僕が子どものころは鬱蒼とした森だったんだよ。今、明るく開けた場所になっているのは、戦争で自分たちの思い出のある森が全部焼かれたから、と言います。すごく悲しいことですが、彼らはみんなで植林したりして、もう一度自分たちの森を取り戻そうとしています。自分が遊んだ森を自分たちの子どもたちにも見せたいというのです。

 日本でもよく見てみれば、身近なところにたくさんの木があります。私にとって大きな木は、天と現世をつなぐ生きものというイメージです。私たちが届かないところに、すっと手を伸ばしている。そういう木はきっと私たちを守ってくれているはずです。みなさんも自分の生きてきた思い出と共にある木を思い出してほしい。

 この自然を守るために、自然や生きものの大切さをこれからも歌っていきたいと願っています。