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  • 西畠清順さん(プラントハンター・そら植物園 代表取締役)

    巨樹を運んで メッセージを届けたい

    西畠清順さん(プラントハンター・そら植物園 代表取締役)
    2018.9.28

 家業は花と植木の卸問屋なのですが、もともと植物にほとんど興味がなく、「何がおもしろいんやろ、こんなもの」と思ってました。だいたいウメとサクラの違いもわからんかったくらいですから。そんな自分にガツンと1発食らわしてくれたのが、20代前半にボルネオの山で偶然出会った食虫植物の巨大なウツボカズラ。標高4,000mを超す高山でけっこうしんどくて、極限に近い体験をしているさなかの、雲の上での劇的な出会いでした。ヤツを見たとき、あまりにも大きくて「え〜!!」と、完全にやられました。

 そのすぐあと、実家に呼び戻されて帰国することに。時期的に冬だったので、山や畑に行って枝を切り、春の花を咲かせてイベントに届けるという仕事から始まりました。卸問屋なので、活け花の家元や造園業の人、フラワーデザイナーなど、お得意さんから頼まれたものを用意するのが仕事です。当初、ハクモクレンやフジの花を咲かせたら、「こんなにきれいなものが世の中にあったんか!」、フジのつぼみが開いたら、「こんな香りがするんか!」と驚きの連続でした。自分が咲かせたサクラを活け花の先生が活けて、会場でみんなが喜んでいるのを見たとき、「あのサクラを切ってきたのは、オレなんやで」と、1人ほくそ笑んだり。仕事を覚えるのに必死でしたが、毎日が楽しかったし、現場で学ぶことがじつに多かったのです。朝から晩まで木に登って枝を切ったり、運んだりして、その重さや香りなどをリアルに肌で感じることができたのは、貴重な財産です。

 そして30代に入る直前、家業とは別に、「植物で世の中を変えたろ」って大マジメに思って作ったのが「そら植物園」です。それまでは、誰かに頼まれた素材を調達するという卸問屋だったのが、仕事の幅がいちだんと広くなり、同時に、僕の肩書きである「プラントハンター」という言葉もある程度認知されてきたかな、と思います。プラントハンターとは、16、17世紀ごろからヨーロッパの王族や貴族のために、世界中の希少な植物を求めて旅をした人たちといわれますが、僕が思うに「その時代時代に、求められている植物を運ぶ仕事」なんじゃないかな。

 僕もクライアントの思い描くようなものを探しに様々な国に出かけますが、流通にのっていない植物も多く扱います。これだけ流通が発達した今の植物業界の中で、ちょっと違ったアプローチで関わっているうちに、「植物で価値観を変えたい」「ひとの心に植物を植えたい」という野望が芽生えてきました。とはいっても直接、植物で人の生活なんか変わるものではないんですけど、植物を運ぶことで「ひとに気づきを与えたい」「誰かに何かメッセージを届けたい」ということなら可能なんじゃないか? と思い、これがそのまま「そら植物園」のコンセプトになりました。

「神のような存在と戦友」

パラボラッチョ(南米)
     パラボラッチョ(南米)

 僕の大好きな木の一つは、カリフォルニア東部のホワイトマウンテンにあるブリストルコーンパインで、「か、かっこええ〜!」と、惚れ惚れするほど。樹齢4000年以上という世界最古の木で、好きすぎて2回も見に行きました。僕の中では、まさに神のような存在。その姿は枯れ木のような風体で、真っ白でまるでオブジェのようですが、1枝だけまだ実を持とうとしている姿に、もう本当に感動して。でも、話せば話すほどもったいないと思っちゃうんで、この話はこのへんで。

 で、もう1つあって、南米の「パラボラッチョ」と呼ばれる木。現地の言葉で「酒を飲みすぎて太ったオッチャン」、日本名はトックリキワタという種類です。バイヤーからオファーがあって買い付けに出向いたんですが、もうどんだけ時間をかけて行ったかというくらい大変な場所だったんです。そして、その山奥で地元の人を雇い、お金と労力をかけて大事に大事に掘り出して持ってきました。でも、バイヤーに「清順は、1週間で5本運んで大変だったかもしれないけど、現地の人はここをプランテーションにするとしたら、数百haをたった数週間で伐採するんだよ」と言われて……。

 見渡せば、この木の生えている周囲は広大な土地に農園ばかり。この開拓された土地に、美しいパラボラッチョがいったい何百本あったんだろう? と同時に、ここで作られたサトウキビ畑のバイオディーゼルを、間接的に自分が使っているかもしれないし、あるいは、そこで採れたトウモロコシが巡り巡ってファミレスのサラダになって、僕が食べているかもしれない、と思うと悪口は言えません。大変な思いをして仕入れたこと以上に得たものが大きく、この木が語ることは多いな、と思いました。なので、自分にとってこのパラボラッチョは、いろいろなことを教えてくれた戦友ですね。

 で、このパラボラッチョ、現在は山口県宇部市の「ときわミュージアム」にいるので、ぜひ会いに行って欲しいです。めっちゃ地元に愛されてますから。さらに、そら植物園のインフォメーションセンター&カフェのある東京・代々木ヴィレッジの庭には、南半球のオーストラリアからはるばる旅をしてきたボトルツリーがいます。じつは、この木は世界の名だたる植物園がみな移植に失敗している中で、ここだけは立派に育っているんです。気軽にふれることができるので、ぎゅっと抱きしめてもらえば、何か感じるものがあると思います。あ、それから福岡の太宰府天満宮のクスノキもおすすめです。一度しんどくなって大手術して元気になった巨樹なんですけど、あんなにデカい木にちゃんと触れるところって、なかなかないんですよ。

 ほとんどの人は巨樹を見て、すごいなー、きれいだなーと写真に撮って「行ってきたで」と拡散して、まるでスタンプラリーのよう。だけど、そんなんじゃ、その木のことを100分の1も知らないで終わっちゃってるんですよ。ただ見るだけでなく、さわったり、抱きついたり、相撲を取ったり、登ったりしたら、感じるものがいっぱいあるはず。僕はそれを大切にしたいので、子どもや大人にもそういう機会を作りたいんです。「めざせ!世界一のクリスマスツリーPROJECT」のあすなろも、展望台を作って直接さわってもらえるようにしたのもそういう理由からです。

 ただ、巨樹というと、保護の観点から柵で囲まれている場合が多いですけど、さわれないことに、くやしさを感じて欲しい。守られている巨樹を見て、くやしさを味わって欲しいとマジで思ってます。