• 文字サイズ
    を変更する

椿名神社(つばきなじんじゃ)の大ケヤキ【群馬県】

2023.1.27

 「江戸の大関より、郷土の三段目」という言葉がある。
 大相撲ファンには、たとえ下位でも郷土出身の力士に向ける格別な思い入れがある。また、力士が出身地に因んだ四股名(しこな)を名乗る例も少なくない。
 今回、紹介させて頂く『椿名神社の大ケヤキ』も、全国的に見れば、まさに「俺が里出身の幕下力士」と言えるかも知れない。しかし、この地で数百年の時の流れを見守ってきたご神木が発するオーラの周波数は、確実に私たち地元民の感性に同調している。

椿名神社の大ケヤキ

椿名神社の大ケヤキ



 さて、慶応4年春、幕末の英傑小栗上野介忠順公は幕閣の要職を去り、知行地である上州権田村に隠棲したが、その直後に小栗の資金を狙った2000人とも伝えられる暴徒が権田村に襲来した。結果的には、暴徒は小栗方の家臣や農兵によって2~3日で鎮圧されるが、騒動に巻き込まれた数名の村人も犠牲になり、また、この一件は無実の小栗公を追討する新政府軍の恰好の口実に繋がるものとなった。
 そして、椿名神社の周辺も「小栗騒動」の現場になったと伝えられる。とすれば、このケヤキは紛れもなく平和な山里に突如起こった悲劇を目撃した訳である。もしかすると、流れ弾の一発くらいはケヤキの幹に食い込んでいるかも知れない。

椿名神社。社殿後ろの丸い樹冠が大ケヤキ

椿名神社。社殿後ろの丸い樹冠が大ケヤキ



 全国的に特筆される名木とは言い難いが、この地に根を張り、私自身の血脈をも含めたこの地の人々の営みを、数百年間静かに見守り続けてきた「椿名神社の大ケヤキ」を紹介させて頂く機会を与えられた事に感謝したい。
*椿名神社の祭神は、元湯彦命・埴山姫命。五穀豊穣殖産の神

椿名神社の大ケヤキ

幹周り 640cm *高崎市指定天然記念物(1982年4月1日指定)としての数値
                  環境省巨樹・巨木林DBでは658cm
樹高 32m
樹齢 約400年
保護指定 高崎市指定天然記念物
所在地 群馬県高崎市倉渕町権田字廣町 椿名神社
交通 JR「安中榛名」駅から約15km
著者 市川平治(烏川流域森林組合代表理事組合長 全国巨樹・巨木林の会監事)