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位山のイチイ【岐阜県】

2022.7.29

 私は、平成11年にIターンで飛騨の宮村(当時)に移住し、村役場農林課職員として働き始めました。仕事では山に入ることが多く、また村にある飛騨の名山である位山(くらいやま)には巨石と巨木が多く、休日も山に入り浸っていました。
 位山は、飛騨一宮水無神社の奥宮とされる山ですが、昔から何かと特別な山とされ、万葉集にその名が出てきたり、平治元年(1159年)にイチイで作った笏(しゃく)を天皇に献上(それにより位山の名を賜ったとも)したり、国の中央との結びつきがある山でもあります。

位山のイチイ

位山のイチイを訪ねられるのは冬季だけ



 令和元年に、天皇の即位に関わる様々な儀式が執り行われたことは記憶に新しいかもしれませんが、天皇がお使いになるものも含め、儀式に使うための笏が、昭和、平成の即位の際と同様、位山のイチイから制作され上納されていました。
 地元ではその2年前から密かに準備を進めていたのですが、位山は市有林という事もあり、私は候補となるイチイの調査から携わりました。その際、位山を歩きまわった経験が生きたことは言うまでもありません。
 イチイの伐採は、古式に則り、神事を行った後に斧で三方から伐る「三つ緒伐り(みつおぎり)」で行われました(現代式にチェーンソーも併用されましたが…)が、私は志願して伐採にも参加させていただきました。初めての斧での伐採でしたが、斧がイチイの堅い材に食い込む感覚は、今も手に残っています。伐採されたイチイは、その後製材され、一年間乾燥して加工され、氏子の方々の仕上げ作業を経て上納されたのです。

イチイ伐採式

古式に則ったイチイの伐採



 位山にはまだ多くのイチイが生育していますが、近年シカの食害が多発し、地元では保護活動と次回の上納に備えた分布調査が始まっています。イチイをはじめとした位山の自然を、郷土の宝として守り伝えたい、そんな思いを胸に、私はまだ何度も位山に出かけています。

位山のイチイ

幹周り 344cm
樹高 18m
樹齢 不明(推定樹齢は千年以上)
所在地 岐阜県高山市一之宮町蔵柱地区
交通 道がないため夏場は特別な場合以外は行くことができません。雪が積もっている冬場にだけ見に行くことが可能。
遭難を避けるため、高山市営のモンデウス飛騨位山スノーパークのスノーシューガイドツアーに参加されたい。
著者 中島照雅(高山市林政部林務課)