大悲山(だいひさん)の大杉【福島県】
2022.5.27

2011年3月の東日本大震災に伴う原子力災害で、福島県浜通りの一帯約10万haに避難指示区域が設定され、当時約8万5千人がふるさとを離れました。南相馬市は3つのゾーンに区分され、北の鹿島区は無設定、原町区は主に緊急時避難準備区域で、発災後約6か月後に同区域は解除されます。その南、東京電力福島第一原子力発電所に近い小高区と原町区の一部は、帰還困難区域を除き除染が終了するまで6年近くにわたり避難指示が継続しました。
小高区中心市街地の南に大悲山の山塊があります。森に覆われた丘陵地帯の谷戸を囲む砂岩の崖には、薬師、阿弥陀、観音の各お堂が点在し、石窟に石仏群が刻まれます。東北地方最大、国内有数の規模の摩崖仏群で、平安初期の大同年間、徳一大師の創建とも伝えられますが定かではありません。

崖下の斜面の杉木立の中、薬師堂に上る石段の両脇に一際大きな杉が聳えます。左側の樹は荘厳を極め、見上げる異形が周囲を圧倒します。樹幹からいくつもの大枝が波打ち宙に吹き上がる様は、八岐大蛇か10年前上空を流れた放射能ブルームの態、それとも観音堂に刻まれた千手観音の脇手でしょうか。
観音菩薩はその大悲もて一切衆生を救い給うと伺います。原子力被災地の再生を見守り、世の尽きぬ業の中の私共一切も救済したもれ。「うつしよに荒ぶる神のおりたちぬふるさとの土はとわに浄らか」。谷戸の水田の緑を眼下に、2012年夏福島派遣当時詠んだ歌を振り返りました。

幹周り | 780cm |
---|---|
樹高 | 45m |
樹齢 | 1000年(伝承) |
保護指定 | 福島県指定天然記念物 |
所在地 | 福島県南相馬市小高区泉沢字薬師前 |
交通 | JR常磐線桃内駅より北へ1.8km |
著者 | 小沢晴司(宮城大学教授、前環境省福島環境再生本部長) |