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波崎(はさき)の大タブ

2018.3.1

波崎の大タブの写真1

 新しい一眼レフを買ってすぐに夢中になったのが巨樹の撮影だ。何百年も生命を保ち、うねるように育ち上がった姿は圧倒的で、いつまで撮っても飽きることがない。太くそびえたつ幹の威容、龍の肌のように荒々しい樹皮、どこをどう撮ってもまだその奥にもっと大きな生命の力を秘めているように思えて、次へ次へとシャッターを切ってしまう。

 そういう僕もはじめて巨樹を訪ねるまで「樹が大きい」ということが、こんなにも超越的な存在を生み出すなんて知りもしなかった。一本の樹がまるで森のように高々と広く豊かに生い茂り、裂けた木の肌は深く苔におおわれ、さらに枝分かれした股には様々な樹の幼木が育っていた。巨樹は古くから人々の畏敬の念を集めていたというが、この一身をもって自然の豊かさを体現している姿に対し、ああなるほどなと、人智を越えたものが宿っていることをごく自然に納得させられてしまったように思う。

波崎の大タブの写真2

 いくつかめぐったなかでも、この神栖市の神善寺にある「波崎の大タブ」は特に思い出深い。膨らんだ幹の根元がユーモラスで、立ち並んだお地蔵さんも絵になる。駅からちょっと離れていて人があまりいないのもいい。根のこぶや幹のうろ、一つ一つの部分までどのように撮れるのか、巨樹は逃げないから、納得がいくまで向かい合うことができる。

 そのようにして巨樹を追っているうちに、娘を授かった。命をくれた樹々に感謝して名前は「咲樹」と名付けた。最近は、もっぱらカメラは娘を追っかけているが、またいつかにお礼をかねて、樹々を巡ることができればいいと思う。

神栖市、神善寺の地図

種類タブノキ
幹周り820cm
樹高15m
樹齢1000年以上(推定)
所在地茨城県神栖市波崎3355
交通JR総武線「銚子駅」から関東鉄道バス「舎利寺前」下車徒歩1分
著者加藤まさゆき(ライター・理科教員)