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寂心さんの樟

2018.2

寂心さんの樟の写真1

 「寂心(じゃくしん)さんの樟(くす)」は、「鹿子木親員入道寂心(かのこぎちかかずにゅうどうじゃくしん)」という、戦国時代にこの地を治めた領主の墓石が根元に祀られていることから、親しみと尊敬をこめて、そのように呼ばれています。寂心さんの命日は1月11日で、毎年その日に地元北迫地区の人々がこのクスノキの下に集まって神事を行い、新しい年の出発の日としています。熊本県指定天然記念物(1974年) に指定され、さらに「新日本名木100選」にも選定されるなど、県内では最大級のクスノキで、熊本市北区北迫の、鹿児島本線JR植木駅から徒歩で約20分の丘陵地に構えています。樹高30m・枝幅50m・幹周1710 cmで、ドーム型の樹形をしており、推定樹齢800年といわれ、江戸時代や西南の役(田原坂の戦い)などの歴史の生き証人でもあります。

寂心さんの樟、幹の写真2

 巨樹になれたのは、地元の伝説で「木を傷めた者には天罰が下る」と言われてきたこともあります。この巨樹の特徴の一つとして、地表付近で横に張り出した根の形が動物や物などに似た形の部分が多く見られることから、パワースポットとしても人気です。しかし2010年ごろから、北側の枝が枯れ下がるなど樹勢の衰えが表面化しました。過去には根元のすぐ近くを県道・村道 が通っていたこともあって、土壌が堅密化して根の生育が阻害されていることが原因と診断されました。さらに、道路基盤としてコンクリート・岩石など40tが埋められ、その上に多量に盛り土されていた新事実が判明しました。15年には台風被害を受け、さらに樹勢が衰えたことから、翌16年に盛り土撤去・土壌改良・活力剤散布などを行った結果、劇的に樹勢が回復しました。根系障害に耐えて元気になった寂心さんの生命力を誉めてあげたい気持ちです。

寂心さんの樟の写真3

 また、「寂心さんの樟」を隠していた周囲の樹木を剪定したことで、道路上からも根元の塊根を見渡せるようになり、加えて風通しや排水も良くなり、防犯効果も向上するなど巨樹の名所としては最適な場所になっています。盛り土を除去したために根元周辺は「すり鉢状態」になっていますが、地元で毎月2回清掃・除草していますので、安心して不思議な塊根や寂心さんの墓石も見学でき、圧倒的な巨樹力を身近に体感できる1本です。

寂心さんの樟の地図

幹周り1710cm
樹高30m
保護指定熊本県指定天然記念物
所在地熊本市北区北迫町618
交通JR鹿児島本線「植木駅」から徒歩20分
著者今村順次(樹木医 熊本県在住)